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野外の滞空記録挑戦記
MISSION T

今日は久々に何も予定の無い休日です。いよいよこの時がやってきました。そう、記念すべき初の”野外フライト作戦”です。
既に何人かの同志が 「野外での輪ゴム発進」 という名の魔物に果敢にも挑んでいますがいずれも11秒の壁の前に力尽きた、との報告が入っています。破れ、傷ついた同胞の為にも今日は一矢を報いたいと思い、眉毛もきりりと広場へ向かいました。

image 田園風景。否、秘密作戦決行の地。
駐車場出入り口のスロープで、Tシャツ、短パンと言う軽装にローラーブレード履いてストックを使ってパイロン抜けの練習をしているおじさんがいた。スキーの夏季トレーニングか!?
「輪ゴムで飛ばしてるのかあ!」とのんきな声をかけられた。
あまりにも危険だ、今からここが戦場と化す、というのに・・・。

本日のひよこ部隊(用意した機体)の構成は28号「スプリントマスター1号」と、この日2002/6/16現在未発表の2機「スプリントマスター2号(垂直尾翼タイプ)」、「スプリントマスター3号(高翼タイプ)」の計3機です。どれも屋内での手投げ試験では、あたかもレールの上を滑るがごとくピッチ、ロールを微塵も見せない抜群の飛行性能を誇る精鋭です。

お天気は快晴、微風(風速0〜2mくらいか)でした。
「ひよこ・・、か、風は難敵だ。気をつけろ・・。」 戦友Nの残した言葉が頭をよぎります。
飛行には直接関係ありませんが気温が高い日なので秘密工作員H(私)のスタミナ切れも心配です。

斬り込み隊長は「スプリントマスター(以下SM、う〜ん。)2号」をチョイスしました。この機体はV型尾翼を持つSM-1の垂直尾翼タイプですが全体のサイズを名刺で作られるギリギリにまで大型化したもので、大きいサイズの方が諸々の影響を多少でも受けにくいだろうという考えです。この判断は恐らく間違ってはいないでしょう。本日のミッションは、これで軽く小手調べの後、SM-1、SM-3もまじえ、じっくり記録に挑戦する、というものです。
とにかく、まず飛ばしてみます。例により汗ばむ指先でフックに輪ゴムを引っ掛けて・・。 いけ!

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「行け!」
 いい大人なのに・・・。

「びしゅーっ」と、風切り音をたて、ものすごく早いスピードで宙返りをしたと思ったら、見失いました。すわ、早くも一機目をロストか!? 辺りを見まわすと3mほど向こうに落ちてました。一安心。
なんとなく予想はしてましたが手投げにはない挙動でした。なぜあんなに急な宙返りをしたのか?機体を拾い、眺めてみるとその謎は簡単に解けました。

image 胴体は一直線の棒状に作りましたが主翼のつく部分にだけ、主翼の前縁が少し上がるように仰角を付けています。(右図)
これにより主翼は空気抵抗の反作用による揚力を得、浮きながら空中を移動するわけですが、今までこの仰角できれいに飛んでいたのは手投げでのゆっくりとしたスピードだったからなのかもしれません。
「ひよこ・・、ゴム発進での調整は、び、微妙だぞ・・。ゲフッ。」 また脳裏をよぎりました。さらに戦友Kの言葉、 「空気の・・、粘性・・、覚えとけ・・・。ゴフッ。」  ・・今やっと理解できました、機速が速いと挙動が大きくなるのは空気の粘性が関係している、という事を。

image 今度は仰角の効果を押さえようと主翼の後縁を捻り上げたりエレベータを下げたりして発射してみました。すると宙返りはせずにまっすぐ上昇します。そして高度5、6m程で上昇を止め・・・
「よし!そこで水平飛行に移るんだ!!」
しかし私の望みとは裏腹に、SM−2は機首を上げる事もなく、まっ逆さまのまま死のダイブ。明らかに揚力不足です。分かってはいたんだけれどなんかくやしい。何回か試しましたが結果は同じでした。


image 視点を変えてみます。
滞空時間を伸ばす場合の紙飛行機の飛ばし方については、うろ覚えの予備知識がありました。紙飛行機を水平ではなく、胴体を軸に、斜めに傾けたまま飛ばすと螺旋を描いて上昇していく、というもの。(左図) なるほど、黙っていても上昇する作りの機体なので宙返りの軸が斜めになると上反角の作用もあり、そのまま戻ってこないでくるり〜っと上昇していくという寸法か、と先人たちの考えの深さを再認識しつつ早速実践してみます。また各部を初期の設定に戻しておきます。


image 本日10投目位。「びしゅーっ」 どうだ!?
「???!!」
ただのななめ宙返りになっただけでした。こんなはずはない、と2回、3回と飛ばしますが結果は同じです。ハイスピード宙返りの後、ふくらはぎを過ぎた辺りで失速したような感じで1、2回ピッチして「ポテ」と落ちます。
今にして思えばこれは当然の結果なのですが、この時は既に冷静な判断が出来なくなっていたようで、うまく行かないのはSM−2のせいだ、とまで思っていました。そして次の瞬間にはSM-1に手を伸ばしましたが、しかし結果は同じでした。


機体を水平にした状態でまっすぐに上昇する設定では、いかに軸を傾けても結局は打ち上げた場所に戻ってくるのは当然の道理です。今回の場合、進行方向に向かって右に機体を傾けて打ち上げていたので、左に旋回するセッティングでなければ螺旋を描いて上昇するはずはありません。

そんな事にも気がつかず、熱くなった頭のまま今度はSM-3に手を伸ばしました。結果は推して知るべしですが、この時は「こいつは高翼機だから今までのとはきっと何かが違うはず」と根拠の無いかすかな期待を持っていました。
SM-3の1発目は輪ゴムを持つ左手に当たってしまい、くるくるっ、と激しく回転しながらぽとりと落ちました。これを踏まえ、次は右手を離すと同時に左手を下げる作戦に変更します。そして2発目。
「ペシ!」
やはり何故か当たってしまいます。ところが・・・。
「おっ!?」 当たりはしましたが飛んでいます。飛んでいる様に見えました・・・。
しかしよく見ると翼の形が妙です。中央からV字に折れながら、ふい〜っと落ちていきます(上反角、恐らく90°)。
エ、エスエムスリー! 、否、スプリントマスタースリー!! そんな姿になってまで魔物に立ち向かおうとしているなんて・・。拾い上げると無残にもポロリと主翼が落ちてしまいました。ごめんよ、SM-3。傷は深いけれどまたくっつけてあげるからね・・。
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「ああ・・・」
SM-2・3、こんな形でお披露目なんて。


数十分前、この広場までの道のりは、これから戦場に向かうというのにわくわくしていました。しかし今となってはSM-1は比較的軽傷ながら傷つき、SM-2のノーズはぼこぼこ、SM-3に至っては飛行機の命とも言える主翼をもぎ取られるという惨憺たる結果に終わり、秘密工作員Hの戦意はほぼ消失してしまいました。
振り返ってみれば、今日の最長滞空時間は恐らく
3秒 くらい。トホホ・・。魔物の棲むという11秒の壁の向こうなんて遠すぎて全然見えません。4秒の壁の前にひよこ部隊は木っ端みじんです
それでもなんとなくあきらめきれずに、いつもの手投げをしてみました。・・・なんだ!?どうしたんだスプリントマスター!全然飛べてないぞ! 屋内での自信に満ちた飛びかたが嘘のようです。「大空」と言う魔物にすっかり腰が引けているように見えました。

本日のミッションは大失敗です。ヤケ酒、ヤケ肉を食いに出かける事にします。




ミッション2への課題
機体のセッティング
本文中にも書きましたが、私の場合、水平飛行で左に旋回するセッティングでないと螺旋上昇をしていきません。うっかりしていました。しかしこの場合、やはり尾翼で調整したほうがいいのでしょうか。
それと重心位置ですが、風に負けないようにクリップか何かで多少機首を重くし、機速をつけた方たほうが良いかも、と工作員Nからの報告にあります。これも要検証です。
胴部の主翼接着部はあらかじめ仰角がつくような形状にしていましたがこれは無いほうがいいかもしれません。飛ばしながら主翼で調整したほうが良さそうです。
主翼の形状
横に細長い主翼は滑空性能には優れているでしょう。でもそれは手投げのスピードの場合のようです。 輪ゴムによる発進時、”名刺ヒコーキ”というスケールからすればものすごいスピードになるので、あの細長い主翼が空気抵抗に負けているのではないでしょうか。案外「デルタ翼」なんて向いているかもしれません。
発射スピード
滞空時間を伸ばすには高度をとったほうが有利です。私はこの「高度」にとらわれ過ぎたのか結構輪ゴムを引っ張って飛ばしてました。上記の”主翼の形状”とも関係しますが、飛行機の形に適した発射スピードがあるのかもしれません。もうちょっと緩やかに発射すればSM号でももう少し記録が伸びたかもしれません。
つづく


Special Thanks (50音順)

秘密工作員N・・・・Nishiさん
秘密工作員K・・・・Mr.KEIさん
お二人とも野外飛行をいち早く実践し、貴重な報告をして下さいました。本文中のコメントはお二人の掲示板への書きこみを私が勝手に解釈しふざけて編集したものです。お許し下さい。
ローラーブレードおじさん・・・・多分地元の人
飛行機を見失いキョロキョロしていたら「あそこにあるよ!」と何度か教えてくれました。私の行動を興味津々で見ていたようです。デジカメに収めておけば良かった。ミッション2決行日にまた居たら今度は必ずGetです。
スーパー助手・・・・友人(子袋好き)
私がアホな行動を続けるも、イヤな顔をせずデジカメ撮影を手伝ってくれました。ヤケ肉うまかったね。

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